東京地方裁判所 昭和50年(特わ)2503号 判決 1976年4月12日
本籍
東京都清瀬市上清戸一丁目四一九番地
住居
同市元町一丁目一番一一号
医師 宇都宮司
大正一二年五月二四日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は検察官清水勇男、弁護人江口弘一出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役八月および罰金七〇〇万円に処する。
右罰金を完納できないときは金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、東京都清瀬市元町一丁目三番一号において、内科、産婦人科等を主たる診療科目とする宇都宮病院を経営する医師であるが、自己の所得税を免れようと企て、架空経費を計上しあるいは診療収入の一部を除外して簿外預金を設定する等の方法により所得を秘匿したうえ、
第一 昭和四七年分の実際総所得金額が一、七一五万七、五一八円あつたのにかかわらず、昭和四八年三月一三日東京都武蔵野市吉祥寺本町三丁目二七番一号所在の所轄武蔵野税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が三六四万五、四一七円でこれに対する源泉徴収税額を除く申告所得税額が二万四、九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により昭和四七年分の正規の申告所得税額六一八万四、四〇〇円と右申告税額との差額六一五万九、五〇〇円を免れ(修正損益計算書および税額計算書は別紙(一)(四)のとおり)
第二 昭和四八年分の実際総所得金額が二、九五八万八、九八七円あつたのにかかわらず、昭和四九年三月一三日同都東村山市本町一丁目二〇番二二号所在の所轄東村山税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が四九九万八、八九五円でこれに対する源泉徴収税額を除く申告所得税額が一六万六、一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により昭和四八年分の正規の申告所得税額一、三一五万四、四〇〇円と右申告税額との差額一、二九八万八、三〇〇円を免れ(修正損益計算書および税額計算書は別紙(二)(四)のとおり)
第三 昭和四九年分の実際総所得金額が二、九九一万二、四八五円あつたのにかかわらず、昭和五〇年三月一一日前記東村山税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が五五六万五、九一〇円でこれに対する所得税額は源泉徴収税額を控除すると二九万〇、五五三円の還付をうけることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により昭和四九年分の正規の申告所得税額一、一五三万一、〇〇〇円と右申告税額との差額一、一八二万一、五〇〇円を免れ(修正損益計算書および税額計算書は別紙(三)(四)のとおり)
たものである。
(証拠の標目)
判示全般の事実につき
一、被告人の検察官に対する供述調書
一、被告人の収税官吏に対する昭和五〇年四月六日付、同年七月二五日付、同月三〇日付、八月六日付、同月二七日付各質問てん末書
一、寺内一郎の検察官に対する供述調書
一、押収してある確定申告書等三袋(当庁昭和五一年押第三一九号の五ないし七)
一、東村山税務署長作成の証明書
(別紙各科目につき)
一、大蔵事務官作成の「診療収入について」と題する調査書および「保険診療収入について」と題する調査書(別紙(一)(二)(三)の各事業所得<1>診療収入について)
一、大蔵事務官作成の「雑収入について」と題する調査書および「公表計上雑収入」(利息)について」(別紙(一)(二)(三)の各事業所得<2>雑収入について)
一、大蔵事務官作成の「架空材料費について」と題する調査書(別紙(一)事業所得<4>仕入金額、別紙(三)事業所得<4>仕入高について)
一、大蔵事務官作成の「旅費交通費について」と題する調査書および「通勤交通費」と題する調査書(別紙(一)事業所得<9>旅費交通費、別紙(二)(三)各事業所得<8>旅費交通費について)
一、大蔵事務官作成の「減価償却について」と題する調査書(別紙(一)事業所得<16>減価償却費、別紙(二)(三)各事業所得<15>減価償却費について)
一、大蔵事務官作成の「給料及び源泉未納額」と題する調査書および「従業員給料について」と題する調査書(別紙(一)(二)(三)の各事業所得<17>給料賃金について)
一、大蔵事務官作成の「不動産所得について」と題する調査書(別紙(一)(二)(三)の各不動産所得<1>不動産収入、同各<3>修繕費、同各<4>減価償却費について)
一、大蔵事務官作成の「不動産所得の一般経費の内租税公課」と題する調査書(別紙(一)(二)(三)の各不動産所得<2>租税公課について)
一、大蔵事務官作成の「譲渡所得について」と題する調査書(別紙(二)譲渡所得<1>車両売却代金、同<2>車両未償却残高について)
一、大蔵事務官作成の「四八年分清瀬市役所から受領した給与について」と題する調査書(別紙(二)給与所得<1>給与収入、同<2>給与所得控除について)
一、大蔵事務官作成の「源泉徴収税額について」と題する調査書(別紙(四)の源泉徴収税額欄について)
(法令の適用)
一、該当罰条と刑種の選択
判示第一ないし第三の各事実‥‥‥所得税法二三八条(懲役刑、罰金刑併科)
一、併合罪加重‥‥‥‥‥‥‥刑法四五条前段
懲役刑につき‥‥‥‥‥‥‥刑法四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に加重)
罰金刑につき‥‥‥‥‥‥‥刑法四八条二項
一、換刑処分‥‥‥‥‥‥‥罰金刑につき刑法一八条
一、執行猶予‥‥‥‥‥‥‥懲役刑につき刑法二五条一項
(情状について)
被告人は昭和三一年ごろ個人で宇都宮病院を設立し、医師の資格を有する妻とともに、診療および経営にあたつていたのであるが、収入が順調に伸びるに従い、病院の改築、設備の改善、息子の医学部進学等の目的のための資金を蓄積したいと考え、また節税についての適切な助言者がなかつたことからくる税負担が重いとの感じから脱税を企図し、自由診療による現金収入を簿外としあるいは架空人件費、架空材料費等を計上する方法により本件脱税を行なつたものである。その額は三年間に合計三、〇九六万円余の多額にのぼりかつ本件脱税より前に産婦人科関係で税務調査を受けた経験があつたにかかわらず本件脱税におよんだものであつてその情は必ずしも軽いとは言えないが、本件摘発後深く反省し新らたに顧問税理士を依頼して、本件犯則事件調査にも積極的に協力させ、かつその助言により経理体制を改善しさらに本件ほ脱税額はすべて修正申告により地方税、加算税とともに納付し、そのため現在では蓄積した資産もほとんど残らず設備の改善等も当分延期せざるを得ない状況となつていることなど諸般の情状を考慮して主文のとおり量刑する。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 安原浩)
別紙(一)の1
修正損益計算書
自 昭和47年1月1日
至 昭和47年12月31日
宇都宮司
<省略>
<省略>
別紙(一)の2
<省略>
別紙(二)の1
修正損益計算書
自 昭和48年1月1日
至 昭和48年12月31日
宇都宮司
<省略>
別紙(二)の2
<省略>
<省略>
別紙(三)の1
修正損益計算書
自 昭和49年1月1日
至 昭和49年12月31日
宇都宮司
<省略>
<省略>
別紙(三)の2
<省略>
別紙(四)
税額計算書
宇都宮司
<省略>